自動車保険には様々な特約を付けることができますが、この特約が発売された時は損保ジャパンも気が触れたかと思ったものです。なぜなら、契約者のモラル上の問題による不正請求や、自動車販売店や修理業者のやりたい放題が発生するのが目に見えていたからです。ネット上では役に立つ立たないの議論もあるようですが、故障運搬時車両損害特約について、今までの支払い経験を踏まえて解説してみます。
どのような特約なのか
この特約は、故障したクルマの修理代を受け取ることができる特約です。故障の修理代です。通常の車両保険はクルマが衝突事故や飛び石、いたずらなどで損害を受けた時にその修理代を補償します。あくまでも外部から何らかの力が加わることが条件でした。
対照的にこの特約は自動車内部の故障を対象にしています。保険の支払い対象になるものが視覚的に分かりにくいことに加えて、一定の条件を満たさなければならないことが足枷になり、本当に価値があるのか分かりにくいものになっています。
故障状態の定義
約款の記載には”契約自動車が故障損害により走行不能となり、走行不能となった地から修理工場または当会社が指定する場所まで陸送車等により契約自動車が運搬された場合は、契約自動車の故障損害に対しても、保険金を支払います”となっています。
・故障損害とは、偶然な外来の事故に直接起因しない電気的損害または機械的損害のこと
・走行不能とは、自力で走行できない状態または法令により走行が禁じられた状態
以上のことから、電気系統やエンジン内部の機械的損害により、走行できなくなったのち、レッカー移動された場合がこの特約の定義する故障状態となります。
支払いのための条件
- 個人の自動車保険契約であること。法人の自動車契約は対象にしていません。
- 故障後レッカー移動されていること
- 並行輸入車・違法改造車ではないこと
- 消耗品の損害による走行不能でないこと。バッテリーやチューブ、冷却水などの消耗品の原因による故障は補償の対象になりません。カーナビの故障やタイヤのパンクも対象になりません。
- 法令上の点検がされている自動車であること。車検が通っているのは当然として、それ以外の1年点検などが行われていること。ただし、点検がされていない場合でも一律対象外とせず、場合によっては対象にするとなっています。損害調査の結果によっては対象にすることもあるとなっており、ここが多少なりとも責任感がある代理店は引っかかるポイントです。ちなみに経験上ここが問題になった事案は今のところありません。
- 修理工場で故障の再現性があること。レッカーされて修理工場に運ばれたものの、故障が一時的に治った状態になり確認ができない場合は支払い対象になりません。
支払いになる主な事例
・オルタネーターが故障し電力が供給できなくなった
・セルモーターが故障しエンジンがかからなくなった
・オイルポンプが故障し油圧が下がってしまい走行不能になった
・トランスミッションが故障し走行不能になった
支払いの限度額
契約自動車に設定された車両保険金額または100万円のいずれか低い金額が限度額になります。
他の特約との関係
自動車保険の特約には、全損時諸費用特約といった全損事故時に一時金が上乗せされる特約が存在します。例えば車両価格30万円のクルマの修理代が45万円かかる状態になると全損です。この全損時諸費用特約とは、全損時に車両価格の10%程度を上乗せして契約者に支払う特約です。この例では30万円プラス3万円で合計33万円が契約者に支払われます。一般的な交通事故ではこの特約は全損時に支払いの対象になりますが、故障が原因で全損扱いになった場合、上乗せの費用は支払い対象外になります。
等級ダウンの取り扱い
現在のところ1等級ダウン事故とされています。飛び石被害などと同じです。扱いとしては運転技術と関係ない事故ということでこのような下げ幅になっています。将来的に支払いが過剰になった場合はこの下げ幅を大きくするか、特約そのものの販売を中止する可能性は結構あるのではと思います。
他社で同じような特約はあるのか
全ての保険会社のことは分かりませんが、東京海上日動火災の自動車保険トータルアシストは運搬後の故障損害について10万円を限度に保険金を支払うとなっています。今後の継続性という点からは、この程度の補償の方が合理的であるように思います。
お勧めできる特約か
私が自動車ディーラーで外国車を取り扱っていればお勧めするはずです。実際に今までの支払いもドイツ車ばかりでした。もちろん契約者は喜びましたよ。国産車についてはどうでしょうか。そこまで故障の可能性があるかと言われると無いんじゃないのというのが私の結論です。